プライシングとは? 価格設定の目的やモデルについて解説 2020.08.12 公開
製品やサービスの価格は何を基準にどのように設定していけばよいのか、日頃頭を悩ませている担当者も多いのではないでしょうか。適切な価格を設定していく「プライシング」の進め方について、特にSaaSに着目しながら、基本的なことから代表的なモデルや戦略までご紹介します。
マーケティングにおいて重要となるプライシング マーケティングを進めていくにあたって重要となるのは、「Product(製品)」「Place(場所、流通)」「Promotion(広告、宣伝)」、そして「Price(価格)」の4つです。これらはその頭文字をとって、一般に「4P」と呼ばれています。「プライシング」とは、この中の「価格」を製品やサービスに設定することです。ただしそれは単独で行うべきものではなく、ほかの3つとの組み合わせによって(マーケティングミックス)行われるべきものでなければなりません。また、それぞれのマーケティング分析についても、どれか一つを深く分析して掘り下げていくのではなく、それぞれ同じように分析する必要があります。 プライシングの目的 価格は「適当に設定しておけばよい」というものでないことは、今さら言うまでもありません。世の中で売られている製品やサービスに設定されている価格には、必ずその価格になった理由や目的があります。そこで、プライシングの主な目的や理由としてどのようなものがあるのか確認していきましょう。 売上げの最大化 事業を経営していくうえで、売上げの最大化を目指すのは当然です。そして、それを実現させるには、価格が適正に設定されていなければなりません。高すぎればお客様の財布のひもは固くなってしまいますし、必要以上に安くしてしまうと、今度はたとえ売れても利益につながりません。製品やサービスの価値や消費者ニーズを正確につかみ、適正な価格を設定することが大切です。 投資の回収 製品の開発や規模の拡大、経営の安定のために大きな投資を行った場合などは、その回収費用もプライシングの目的となります。その場合は、費用対効果を表す指標で、一般的に、利益÷投資額×100で算出することができる投資利益率(ROI)に基づいて適正価格を設定していきます。また、新製品を発売したときなどは、あえて高めの価格を設定し投資を回収するという方法もあります。新製品であれば、多少高くても、とりあえずお試しで一回買ってみるという消費者心理を利用したもので、このような方法も有用です。 シェアの拡大 製品やサービスのコストは大きく分けて固定費と変動費によって成り立っています。人件費などの固定費は、製品・サービスの量が増えれば増えるほど下がります。また、原材料費や発送コストなどの変動費は、大量に仕入れたり発送したりすることで節約できます。つまり、シェアが拡大し生産量が増えれば、そこに規模の経済原理が働いて、製品・サービスの単価を下げることができるようになり、利益率の上昇にもつながるわけです。こうした効果を得るためには、現在だけでなく、将来にわたるマーケットの成長やニーズの変化等も考慮に入れながら、適切な価格を設定していく必要があります。 市場競争への対応 例えば、他社が自社のシェア拡大をもくろみ、競合する製品の価格を下げてきたような場合には、さらなる値下げを行うという思い切った策も必要となります。また、逆にこちらから値下げ競争を仕掛けていくという方法もあります。他社が追随できないような大胆な値下げやキャンペーンを展開すれば、一気にシェアを拡大することも不可能ではありません。 SaaSにおける代表的なプライシングモデル ではここからは、SaaS(Software as a Service)のプライシングについて、代表的なモデルや特徴を説明していきます。 バリュー・ベースド・プライシング バリュー・ベースド・プライシングは、売上げやコストインパクトの削減効果など、その製品やサービスが生み出す価値(バリュー)に基づいて、価格を設定する方法のことです。価値があれば高値を付けられる反面、低ければ原価に満たないこともありえます。SaaSでは、顧客管理(CRM)・営業支援(SFA)システムの「Salesforce」や自動経費精算システムの「Expensify」など、アドテック(広告技術)や業務効率化に関するサービスでよく使われています。顧客は同じような製品やサービスを比較する傾向にあるため、競合製品が存在する場合は有効です。ただし、競合他社がいない場合は効果を発揮しません。 コスト・プラス・プライシング 製品の原価(コスト)に一定の利幅(マージン)をプラスしたものを価格とする方法で、プライシングの最も基本的な方法と言えるかもしれません。一般に製造業や流通業などでよく使われており、SaaSではクラウドサービスの「Amazon Web Services(AWS)」や電話APIサービスの「Twilio」などで用いられています。コストや利益計算が簡単な反面、市場動向が反映されにくいという面もあります。 コンペティション・ベースド・プライシング 競合(コンペティション)するほかの業者の価格を意識して、自社の価格を設定することです。比較的簡単に行えるということもあって、SaaSでは最も一般的な方法です。自社製品の価値やブランド力などに自信があれば、他社より安価に設定するという選択も大いに考えられます。しかしこの手法は、価格競争に巻き込まれてしまう可能性も考えられるため、よほど資本力のある企業でない限り、慎重に行う必要があるでしょう。 代表的なプライシング戦略 プライシングの方法は、もちろんこれらだけにはとどまりません。特に新製品の発売時に戦略としてよく使われる方法をご紹介します。 ペネトレーション・プライシング 自社の製品を比較的短期間で市場に浸透(ペネトレーション)させるため、最初から他社より大幅に低い価格に設定することです。大量生産が可能であるとか、ほかの分野で確立された技術を活用できるためコストを低く抑えることができるというような場合には、こうした手法も有効となります。 スキミング・プライシング 「上澄み価格戦略」とも言われ、ペネトレーション・プライシングとは全く逆の方法です。当初は比較的高値に設定しておき、時期を見て次第に価格を下げていきます。うまくいけば初期段階で開発に要したコストを回収することができるため、競合する製品が少ないとか、他社製品と差別化ができているというような場合には、非常に有用な方法です。 まとめ マーケティングにおいて、プライシングの果たすべき役割は大変重要です。しかし、実際には「これが正解」というプライシングが存在するわけではありません。現在と将来の市場動向やニーズ、顧客層、競合他社のプライシング戦略、自社製品の優位性や方向性など、様々な視点から自社製品・サービスを見極めたうえで、プライシングをしていきましょう。